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正岡紗季さんの推薦文一覧
夏海はここだ
ここで見て読みたいと思った。文フリで自ブース空けて買いに行った。引きずり込まれて一気に読んだ。電車移動中に片手に鞄を掛けると腕が重い。でも読んだ。旅先だったがホテルの湯船でも読んだ。スターブックスの製本がやけにカッチリ、ノドが開きにくく読みづらかった。関係ない。左右に傾けながら走り抜けた。
普段私は読書をしない。地元に好きな書店もない。フィクションを読むのは久しぶりだと思う。よい本に出会った。おもしろかった。
おもしろかったけど、今開いて部分的に読み返すと、痛い。今度は読み進められなくなった。
そして夏海はここだと思った。鉄道は最寄り駅が最寄っていないし架線がないから電車じゃなくて汽車だ。子を産むことへのプレッシャーが強いが夜ばいの習慣はない。ただしセックスするのは恥ずかしいこと、だったら結婚して子づくりしなさいという空気。瀬戸内の海に面した孤島で、引き潮でつながる島がある。子供が冒険心で渡る島。私も渡って、満ち潮になる前に戻ってきた。危ない遊びはしていないが、ここまで情景が揃えば十分だ。
夏海はここだと思った。そして私はババアだと思った。理由は言いたくない。自分や身の回りを投影する作品にはそうそう出会わない。
それが余計に、痛い。
タイトル赤ちゃんのいないお腹からは夏の匂いがする
著者にゃんしー
価格500円
ジャンル純文学
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読みたいときに手元にある安心
読みたいときに読みたいものが手元にあるのは嬉しいことです。渇望が濡らされてしまう場合もあるでしょうが。
小高さんの小説を何冊か読んで次どれにしよう、何か読みたいけど一つ決めるのが難しいそして次に回して在庫なし再版なしになったらどうしよう、と思っていた時にこれが出ました。買うよね。どうせあれもこれも読むなら収納含めて手間も価格もコンパクトで私にはよい。おかげで買い逃しなく、今読みたいものを手元で探せて便利です。連作だったりあの時の登場人物は今! という作品がよい按配で並んでいます。著者オススメ(なのかどうかはちゃんと分かってるわけではないですが)で読めるのはよい。コンシェルジュ機能搭載ですよ。たぶん……。
軽快な筆致にテンポよく読んでいて、進展で涙腺を開かれる小高節が好きです。
鳥の方の作品に鳥が出てくるのを見つけてクスッとなるのも楽しみの一つかと思います。
ぜひ本棚にお迎えください。ほんとにお徳用ですからね、これ。
タイトル15/30(小高まあな作品集)
著者小高まあな
価格3000円
ジャンルライトノベル
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耽美的世界は端正で溺れずに読み、読後に耽溺する
泉由良さん『ウソツキムスメ』すごく良かったです、震える。

身近にある・ありそうな・なくてもあると言われたらそう思えてしまう短編群。登場人物の世界で続いていく物語の中で切り取った時間はほんの少し。読まねばならぬ部分だけを厳選して端正に描かれた、現実的なおとぎ話のようでした。
読者として傍観しながら否応なくに至近距離に立たされる、とにかく魅力的です。
読むテンポが寄り添うのに現実感がありあまる。溺れるように惹き付けられて読みました。

由良さんの描くものの美しさに対して私は早漏に過ぎるのですが、溺れずに読み切って直後に耽溺する。という読書体験を得ました。ものすごいカタルシス。
ほろっと、しかしぽろぽろと、泣かされます。
タイトルウソツキムスメ
著者泉由良
価格600円
ジャンル純文学
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あなたにとって○って何ですか?
異世界へ潜り込んで何かを得て失って知る話かもしれません。主人公さくらは選択した不可抗力で汐音に流れます。目的地・田中建築事務所で出会う面々も訳あり。それぞれにハイスペックな人間が落ちてきたように見えます。それは失敗だったのか。負けなのか。じゃあ勝ちってなんだ。そう問われる作品、というよりはそれを疑っていい作品でした。やさしい。一回負けても終わりじゃないと言われた気がします。説得力を伴って。
概ね成長物語だと思います。臨場感が溢れていて、居場所や役割を見つけ充実していく展開には我が事のように高揚しました。物事が暴かれていくのにゾクゾクし、最悪の事態には一緒になってアップアップしました。
物事出来事の一つ一つは白とも黒とも決められないグレーの濃淡で、大小の社会(1人対1人だったり家族だったり会社だったり)のうねりが世界を揉み動かしていく。読後、現実に起きたある事件を想起するかと思います。モチーフに過ぎないので実際どうだったのかは別の問題として、良し悪しの決められない小さな無数の出来事はむしろ夢と志と善意の賜物で在る。無数のボタンを夢中で合わせていくうちに少しずつ掛け違えて攣れて大きな力がかかり、合わせたボタンがバラバラっと全部落ちてしまうことは少なくない。
で、失敗だったのか。負けだったのか。じゃあ、勝ちってなんだ。価値ってなんだ。あなたにとって、○って何ですか?
そしてそこで何を見るか。

数々の問題提起がある。答えを探しに行く余地がある。これは愛です。成長物語と書きましたが進歩も後退も停滞もそれぞれに成長でしょう。さくらは汐音に来て初めての変化を得ます。でもやっぱりさくらはさくらだと思うのです。人は変われるし、変わらなくてもそれでもいい。ダメでもいい。大らかなヒカリを感じます。時に眩しさは痛みとなりますが。
文脈に落とし込まれた、宇宙と世界と社会(家)の在り方や表現が好きです。いろんな光が見えます。それぞれの光の表現が素敵です。
大小のどんでん返しも見事というか、やられた! と思いました。
汐音の人はいびつな社会から弾かれて逃げ延びてきたかもしれません。でも逃げたらいいと思いました。落ち延びてもそこで生き延びればいいと思いました。元の社会をくそくらえだと思いました。
私にとって、この本は愛であり、優しさです。
ただし寝不足にお気をつけて。
タイトル田中建築士の家
著者にゃんしー
価格800円
ジャンル純文学
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絶望と希望が重なるところ
 フィクションなら良い。フィクションであって欲しい。
 フィクションで、ある。
 母娘の共依存を描いた小説である。一言で言えば生々しい。真実は小説よりも奇なり、であって欲しい。事実よりもリアルな小説だと思った。
 主人公とその母親の関係(共依存)は、望んで築くものではない。陥るものだ。少なくとも娘側から見れば忌むものでしかない。アルコール依存がもとは好きで嗜むアルコールから依存へ踏み込んで制御できなくなるように、共依存関係も愛情に端を発するものだろうと思う。うまくいかないのだ。
 愛が美しいと誰が決めた。愛情は必ずしも美徳ではない。ここに描かれているのも愛着の障害と呼んでいいと思う。異常な・狂ったものにしか見えないだろう。
 分類としては怖い小説だが、あまりにも私の状況と似ているために全面同意の相づちを打ち続けてしまった。どうか読んでください。理解して欲しいとは言わない、せめて知って欲しい。そんな祈りの気持ちを抱きました。
 母娘の共依存関係に触れる解説書を再三読む。具体例は実際の出来事をオブラートに包んだりわかりやすくしながら語られるようだ。第一線の現場に立ち続けたベテランカウンセラーのそうした話と同等かそれ以上に、迫りくるものがこの小説にはある。ああ、小説家が書いたものなのだな、と思う。場面描写から窺える執筆時期は、娘個人の大小の問題が、母娘共依存関係の文脈で語られ始めた、あるいは関連書物が出てくるようになった頃じゃないかと思う。先進的問題に果敢に取り組んで成功した作品なのじゃないかと外野から想像しています。もちろん色あせて感じられることはありません。
 小説として描かれた筋書きの救われない点は同時に、私にとっては救いでもある。なぜなら、母も子も自身の不合理を感知しているからだ。受容するほど強くはないが、受容できない弱さを受け入れるほどには強いなと思った。その強さがなければ、暖簾に腕押すやりとりをのらりくらりと続けてしまうだろうから。
 どうか読んでください。わかりたくないと私が思う、そのことも含めて知って、忘れたり忘れなかったりする心を見つけられる世界を私は望んでいます。
タイトルお母さん
著者鳴原あきら
価格500円
ジャンル大衆小説
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