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泡野瑤子さんの推薦文一覧
人としての生が終わっても、生き方は終わらない
『騎士の剣』は、16世紀ドイツを舞台にした濃密なファンタジーです。
人ならざる者になり、永い命を得てなお騎士であり続けるハインツ。その昔語りを聞く医師パラケルススにも、どうやら秘密があるようで……。

人としての生が終わっても、生き方は終わらない。
ハインツが人間ではなくなったゆえに、かえってそのひととなりが鮮明に浮かび上がるのは、吸血鬼物ならではの面白さでしょう。
騎士の時代の終焉とその寂寥感は、かつて侍がいた国の私たちにも覚えがあるような気がします。
騎士と医者、それぞれの生き方を貫くハインツとパラケルススは、どちらもつらい過去を経験しています。その二人が共感し合えるところに救いがあって良かったです。
(特に44ページ上段のパラケルススの台詞はぐっときました……。ぜひ本でお確かめください)

新書版82ページと決して分厚くはないご本ですが、しっかりした文体で描かれる近世ドイツの空気が濃密で、文字数以上の充実感がありました。
それでいて各キャラクターの言葉にも血が通っていて(吸血鬼物に対して変な喩えかもしれませんが)親しみやすさも感じました。装丁もあがさ真澄さんのイラストも素敵で!
個人的には愛らしいけれど芯が強いリディアや、ちょっぴり(※婉曲表現)シスコンも入ってるハインツが好きです。
別冊「錬金術師の手帳」も付いていて、私のような世界史素人にも親切設計でしたし、全体を通して作者さんの題材への愛着が感じられる作品です。
タイトル騎士の剣
著者宮田 秩早
価格200円
ジャンルファンタジー
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嘘つきの物語は、作者の言葉さえ疑う
私はこの作品を読みながら、物語において「ミステリー」は何のために存在するのだろう、と考えていました。
ここで言うミステリーとは「隠された真実」、つまり「犯人は誰か」「何が起こったのか」に加え、叙述トリック等によって後々開陳される事柄を含みます。

古今東西ミステリー小説は数多あり、謎解きそのものを楽しむものもありますが、ミステリーは作品の最も本質的な部分に光を当てるためのしかけであってほしいと個人的には思っています。
タネ明かしがされて「騙された!」「そうだったのか!」と感じたとき、私はそれまで頭の中で作り上げていた仮説を再検証していきます。何が正しくて何を誤解していたのか。なぜ誤解していたのか。その過程で作品の、または読み手である私自身の本質が鮮明になっていくのが好きなのです。

『嘘つきの再会は夜の檻で』は、まさにそういったミステリーの醍醐味が詰まった作品でした。
本作における最大のミステリーは、もちろん透夏の母が殺された事件の真相ですが、通り魔事件の真相や透夏を巡る人間模様など、小さなミステリーもふんだんに散りばめられており、そのひとつひとつが最大の謎に繋がっていく構成になっています。(こりゃすごい)

しかしながら、このお話で一番重要なのはミステリーそのものではなく、その先にある透夏と悠の関係だと思います。
全ての真相が明らかになったとき、私は二人の間にある絆を何と呼ぶべきか、考えてしまいました。
あらすじには「執着の物語」とあります。
作者の土佐岡さんがそうおっしゃるのなら、二人の関係は「執着」なのかもしれません。
でも、本当にそうなのでしょうか?
読者はその言葉を信じるべきでしょうか?
私には土佐岡さんの言葉さえ疑わしく思えてなりません。
何しろこれは、「嘘つき」の物語なのですから。
タイトル嘘つきの再会は夜の檻で
著者土佐岡マキ
価格1000円
ジャンル大衆小説
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新鮮な驚きに満ちた、クラシックな吸血鬼モノ
『Lacrime Rosse』は、『Crimson Regalia』につづく吸血鬼作品集の第二集です。
「吸血鬼モノばかりを集めたら、ネタがかぶっちゃってるんじゃない?」……なんて心配はいりません。
英国の探偵譚、第二次大戦下の戦闘機とドラゴンの物語、そして、吸血鬼オールスター大集合な一作などなど。
すべての作者さんがしっかり自分の文体や画風でもって「吸血鬼」という題材を生かしてらっしゃって、私のように世界史や吸血鬼モノになじみがない人間でも存分に楽しめました。
(もちろん詳しければもっと面白いはず!)
吸血鬼ってこんなに多彩なのですね!
読み応え満点、「クラシック」な吸血鬼モノだけど、新鮮な驚きに満ちていました。
また、それぞれの作品が実在の国と時代を舞台としているので、歴史の影に暗躍する「彼ら」の姿を垣間見られるのがこの作品集の醍醐味だと思います。
もしかしたら、この現代日本にも……? なんて想像してみるのも楽しいですよ。
タイトルLacrime rosse 吸血鬼作品集
著者宮田秩早・アコカズ・羽彩仁海・ミド・七輪・齊藤さや・伊ノ本カズラ
価格700円
ジャンルファンタジー
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やさしい「罪と罰」の物語
地面にひとりでに穴が空くという奇妙な現象が起こる荒野。
その穴を惹かれてやって来た少女ネルと、近くの森に住む三人の「穴埋め人」、そして番人ロッヒの物語です。

こんなにやさしい「罪と罰」の物語があるのか、と思いました。
穴埋め人は――みなやさしくてとてもそうは見えませんが――過去に罪を犯して送られてきた人たちです。
ネルもまた、心の中に罪の意識を抱えていました。

作中、「灰量り」という印象的な物語が登場します。
簡単に言うと、人間は生涯で犯した罪の分だけ心臓に灰が積もっていて、その量の多寡で死後に天国に行くか地獄に行くのかが決まるというお話です。
その言葉を借りるならば、穴埋め人は、またネルは、自らの胸の内に灰を抱えています。
なぜ大地に「穴」が空くのか。作中でその明確な答えを知ることはできません。
ただある穴埋め人は「罰だ」と言います――つまり彼らは己の灰を注いで、穴を埋めているのです。


荒野に空いた穴を、やさしい罪人たちが埋める。
寓話的で穏やかな筆致でありながら、読むほどに胸をかき乱されるようでした。
だってやさしい彼らさえ罪を犯しているなら、私もまた罪人に違いないと思うから。
いったい自分の心臓にはどれだけ灰が蓄積しているのだろうと考えずにはいられませんでした。

けれどもこの作品は、私たちの罪を糾弾するものではなく、かといって安直に許すものでもないと感じました。

「人は皆、失ったもの、恐れるもの、忘れたい事で心を穴だらけにしながら生きているのに、どうして目の前のこの人間だけを化け物のように扱わないといけないのだろう?」(本文51ページ下段)

『巨人よ、穴を埋めよ』は、読む人に自分の罪を気づかせ、そのことで少し罰して、けれどもそれ以上に寄り添ってくれる物語だと思います。
あなたの罪が大きければ大きいほど、または、あなたがやさしければやさしいほど、この物語はきっと大切なものに変わることでしょう。
タイトル巨人よ、穴を埋めよ
著者そらとぶさかな
価格300円
ジャンルファンタジー
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