推薦者一覧
N.river(1) あまぶん公式推薦文(7) きよにゃ(2) なな(3) にゃんしー(2) ひざのうらはやお(1)
ひじりあや(1) まゆみ亜紀(2) まるた曜子(2) オカワダアキナ(3) 宇野寧湖(1) 宮田 秩早(9)
犬尾春陽(1) 高梨來(6) 桜鬼(4) 新島みのる(2) 壬生キヨム(5) 正岡紗季(3)
想詩拓(1) 第0回試し読み会感想(2) 凪野基(8) 白昼社(1) 服部匠(6) 泡野瑤子(4)
鳴原あきら(5) 柳屋文芸堂(2) 容 (@詩架)(1) 鈴木薫(1)

オカワダアキナさんの推薦文一覧
夏のいのちは汗をかき、精を放つ。
 血や汗や精液、むわっとにおいが沸き立つ小説です。読むことが楽しくて気持ちよくて仕方なかった! にゃんしーさんの文章は前へ前へと進んでいく力があふれていて、お話と文章とのリズムが身体を高揚させるなあと思います。
 わたしは藤木と少年Hが取調室で全裸対決するシーンがいっとう好き。ひどいことがたくさん起きるのに、どろどろしているのに、たくさん血も流れるのに、夏水という土地にいってみたいと思ってしまうのはなぜなんだろう? 海祭りとか野球場とかコビールとかモクモクとか、どうしてか魅力的にうつるのです。登場人物たちもそう。実際に目の当たりにしたらけっこうこわい人たちかもしれない…でもどこかカラッと明るくてチャーミングなんだ。ひとってそういうものかもしれないなあなどと考えながら読みました。愛情と劣情と残酷を、ひとは同じ口や手足でやってのける。
 物語が進むにつれ、視点はどんどん変わってゆきます。舞台から去った人が心の奥底で何を考えていたのか、観客(読者)にはほんとうのところはわからない。物語は加速して、飛躍する。ああ、夏を生きてるんだなあ。暑い日に読んでムラムラしたい本です。
タイトル赤ちゃんのいないお腹からは夏の匂いがする
著者にゃんしー
価格500円
ジャンル純文学
詳細書籍情報

誰かを好きになること、幸福な追体験
作者である高梨來さんが、とても大切に愛情深く書かれたのが伝わってきます。BLといえばそうなのだけど、誰かを好きになることや寄り添い合うことのあたたかさが丁寧に描かれた、純度の高い青春ストーリー。キュンとしたりはらはらしたり、もだもだしたり。海吏と一緒に悩み惑うのはいっそ心地よくて、読書の醍醐味だなあなんて思ったり。
海吏のナイーブさ、祈吏のかわいさ(本当にかわいい!いっそとうとい!)、春馬くんの優しさ。キャラクターがとても魅力的で、10万字という長さを感じさせないテンポの良さです。会話のみずみずしさもそうですが、お洋服や食べ物などのディテールがかわいくて、素敵です。
私の最推しはマーティンです……!シベリアンハスキーのような瞳、という描写でもう好きに決まってるんですけど、ちょっとした会話や仕草にあらわれる優しさ、海吏へのまなざしがもう……!これ以上は私が言うのも野暮なので、ぜひ読んでください。
続編や掌編、あまぶんではポストカードSSも、彼らの物語はこれからも紡がれていきます。Twitterやブログでも、來さんから彼らのようすを聞かせていただけて、それらをリアルタイムで楽しめるのが読者としてとてもうれしいです。
タイトルジェミニとほうき星
著者高梨 來
価格800円
ジャンルJUNE
詳細書籍情報

ごはんをかこむ距離、愛情を咀嚼すること
丁寧に紡がれた関係性にあたたかな読後感を得たBL。テンポの良い若者たちの会話のリズムに乗って、すいすい読み進めました。
ゲイであるというコンプレックスを抱える周に対し、ぐいぐいと距離を縮める忍。忍くんのまっすぐな愛情、懐にするりと飛び込んでくるさまはとてもチャーミングです。

印象的だったのは食事のシーンです。ふたりは何度も食卓を囲みます。居酒屋で、アパートで。距離をはかりながら、秘密を打ち明けながら、少しずつ互いを受け入れ許すため、あるいはなんでもない朝や晩の営みとして。決して贅沢な食事ではないけれど、とても豊かな日々。
とくに周と忍が初めていっしょに食べる朝ごはん、忍がごはんをミネストローネに浸して食べるシーンがとても好き。周が世界に引いていた一線「灰色のゼリー」を、忍がやすやすと越えてくる印象的な描写です。

周の、自分は同性愛者であるという苦悩、それゆえの周囲への不信感もとても丁寧に描かれています。自分のうちにこもりがちな周ですが、じつは周囲の人たちはみんなあたたかい。友だち、バイト先の同僚、忍の友だち海吏くんや春馬くん、きっと周の実家の家族だって(方向性や種類は異なるとしても、周にとっては受け入れがたいとしても、受け入れないことを選択するとしても)愛情深いのではないか。
手を伸ばせば、心を開けば、あたたかな世界が広がっている。ただそれを無理にこじ開けようとするのでなく、周が忍とのやりとりを通して徐々に獲得していくのが素敵だなあと思いました。焦らなくていい、だめでも格好悪くても失敗しながらでもいい、不完全な若者同士が寄り添って、自分たちのペースでふたりだけの“生活”を手に入れる。その小さな達成にほろりとしました。

あとがき、後日談的な章、ペーパー、そしてweb等、周と忍の物語は続いていきます。幸せなこともそうでないことも、二人で紡いでいくのでしょう。物語を見届けたあとにそれを味わえるというのは、読者として幸福です。作り手とキャラクターが相思相愛であることが伝わってくる、愛情にあふれた作品です。
タイトルほどけない体温
著者高梨 來
価格900円
ジャンルJUNE
詳細書籍情報