出店者名 浮草堂
タイトル 桜花咲くひとひらの薄闇にて
著者 浮草堂美奈
価格 300円
ジャンル JUNE
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紹介文
あの男娼、軍人崩れだってさ――。
一つ、夜を重ねるたびに
一人、男たちは話をする。
やましい、うしろめたい、後ろ暗い話を。
昭和のどこかの男娼屋で、愛する男を待つ男。
一番くらいところで生きている、じょろうぐもとの夜。

 そうだよ、また浮気しにきたんだよ。
 あの子というものがありながら、また浮気しにきたんだよ。
 いてえ。
 ぶってくれたのかい。
 だけど、そんな遊びみたいなぶち方じゃダメだよ。
 怪我したっていいんだよ。
 怪我をさせておくれよ。
 あんたにぶたれた痣を、あの子に見せたいんだよ。
 やめちまうのかい。
 つまらん。
 さっさと脱いじまえ。
 あの子のさ。
 ああ、脱ぎながらでいい。
 あの子の肌に墨を入れたんだよ。
 うちの腿に、桐の紋を入れたんだよ。
 俺の家紋だよ。
 十五やそこらの子どもだもの。うっとりするほどきめの細かい肌さ。


声もなく泣く
どうして美しいものを読むと悲しくなってしまうのだろう?
そんなことを考えた。
この書籍には、美しいものしか書かれていない。
例えるならタイトルの通り、薄闇のなかに咲くひとひらの桜花。
わずか40ページ。
しかし物語がそぎ落とされるほど、それを分母として
全体としての数は無限大に拡大していく。
悲しくなるのは、きっとそこに世界を見いだすからだ。
世界は悲しい。生きることは悲しい。
それを言葉にすることなく、ただ目の前でエロティックに示してくれる
ストリップ・ショウのような一冊だった。
そこには声もない、しずかなだけの涙がある。

本作のジャンルはJUNEである。
前回ほど明示はしていないが、尼崎文学だらけではJUNEに明確な定義を与えている。
それは「異性愛ではないもの」。
本作は男娼をモチーフにした話であり、単純に読み取るなら同性愛の話である。
もし可能であるならば、少しだけ拡大解釈してほしい。
物語に描かれた、男娼の「異性愛ではないもの」を。
それは言葉にしなくてもいい。ただ感情として、携えていてほしい。
推薦者あまぶん公式推薦文